子供たちの子供たちの子供たちへ。
鳥が羽ばたく音を聞いた気がして、彼は顔を上げた。
しかしそれは錯覚で、彼はうろんげに上げた顔を支える為に顎に手を乗せる。
彼が居るのは窓の無い密閉された空間だ。
最後に屋外へ出たのが何時の事だか、彼はもう思い出せない。
何時でも出て行く事は出来た。扉に鍵は掛かっていない。
しかし彼はこの椅子に深く身体を沈め、何時でもこの部屋に居た。
この部屋を「子宮の中のようだ」と嘲った男を、彼は殺そうと考えるのが好きだった。
--------好きだった?
そんなはずは無い。彼は「死」によって彼から逃げる生命を・・あぁ言葉にするのは難しい。
憎み、蔑み、恨み、そして羨ましくて堪らなく思うのだ。彼の身体は空っぽだった。
或いは全てを持ち過ぎていた。彼はひとりで宇宙。
そう、その為に彼は何処にも誰にも身を寄せることが出来ない。それは虚しい事だった。
捨てるのが怖かった。
それは捨てられるのが怖いという事だ。
ひとつひとつ拾い集め、抱えきれずに身動きが取れなくなっても、
捨て去ることが怖かった。「それでは生きて行けないよ」と彼の傍で、呟いた人は誰であったか。
彼は何ひとつ、その掌から零れ落ちていく雨粒すら容認出来なかったので、
その代わりに、彼自身をひとつずつ捨てていった。
そうして残ったのが今の彼だ。彼は制服を着て、椅子に身を沈めている。
彼自身の持ち物は今や何も無い。
捨てられなかった何もかもで彼の両手は塞がり、いつか捨てられなかったそれらが彼自身と
同化する日を願っている。
彼はどんどん彼自身を無くして、今ではもう名前も失ってしまった。
彼はまだそれに気付いていない。誰も彼の名を呼ぼうとしないからだ。
彼はひとりで宇宙。