お宅訪問
アラシヤマは均整が取れてないので、いつもどこかちぐはぐだ。これはシンタローの感想だ。
アラシヤマは修行時代に主婦をしていたのでしっかりしているつもりだ。例えば「キャベツは
二日酔いに効く」と聞けば深酒の翌日には必ず食卓に並べる。ずっとそうしている。例えばト
イレットペーパーは198円でなきゃ買わない。が、金銭感覚はありそうでない。安い食器。
プラスチックのを使っておきながら、部屋には綺麗な硝子の置物が転がる。それは丸くて、手
のひらで包めるほどで、透明の硝子の円の中に赤く丸い硝子がたゆたっている。硝子を揺ら
すと中の赤い硝子がゆっくりと動く、とても綺麗な置物だ。アラシヤマの部屋は狭くて古い。
一日中日に当たらない壁に絢爛な掛け軸が掛けてある。
「んー、前体制の頃××殲滅の褒美、全部使ぅて買うたんどす。」
「幾ら!?」
―――物凄い金額。
「おめぇ馬鹿か!」
「へえ。けどわてが壊して殺して貰ぅた金で、こないに綺麗な置物が買えるんやて思ぅたら、」
――――血みどろの手が、こんなに綺麗なものに代わるなら、と聞こえた。
「お前はオレの為に働けばいいんだよ。金じゃない。オレの為だけに働け。」
アラシヤマはしっかりしているつもりだ。誰よりも有能に働いて、誰よりも功績を上げて。
ためらわずにだれもかれもころすそれがアラシヤマの仕事でおもえば目の前のシンタロー
の赤い総帥服をきるのは彼の野望だったはずだがそれももうむかしの話だから師匠に失望
されないように生きてきたけれどもその師匠はもうここにはいない。
「けど、わて、やっぱり何か買うてしまうんやろうなぁ。」
「家計簿付けろ。」
シンタローはプラスチックのカップから緑茶を飲みながら、そう言った。
初めて入ったアラシヤマの自宅はやっぱりアラシヤマの自宅らしく居心地がすこぶる悪い、と思った。