ここに居ない人の話題。





「・・・さっすが、シンタローさんは魚食うのも上手っすね」
 恐ろしい舅に対するおべんちゃらではなく、リキッドは思ったままの感想を口にした。
「そーか?」
シンタローは別段嬉しくもなさそうに茶を啜った。誉められ慣れている男の反応だ。
「コタローは最初、箸の使い方も知んねーで・・というか魚なんて生臭くて嫌だ!とか
ぬかしてたっけなぁ」
コタローの名前に反応して、じろり、と強い視線。しまった地雷を踏んだ、とリキッド
は慌てて言葉を続ける。
「で、でもそのうちパプワと一緒なら魚も野菜も食べるようになって、箸も上手に使え
るようになったし、ってかやっぱ血筋っすかねぇ、何だかんだ言っても品が良くって、
コタローは。あはは」

 目の前の俺様のコタロー溺愛振りは並々ならない。リキッドはシンタローの、じろり、
に負けてまくし立てる。
しかも慌てて取り繕った最後は下手なお世辞めいてしまって、なぜか可笑しくもないの
に笑った。この下っ端気質が恨めしい。


「あいつは、ずっと眠っていたから」


 どつかれるのを覚悟していたのに、以外にも返ってきたのは静かな声だった。
彼らしくない。悲しそうにも、疲れているようにも見えた。そして一度そう思ってしま
うとリキッドは弱かった。
「あ!血筋って言っても、獅子舞は別っすよねー!あの人ぁ、散らかすし食いながら喚
くし、きたねーったらないっすよ!毎回片付けんのオレの仕事だったし全く・・」
「あのアル中は、どーしようもねーからな」
リキッドがへたくそに無理やり話題を変えたのを、シンタローは気づいているのかいな
いのか、どうでも良いのか、その表情は読めなかった。

「でも、叔父さんは・・・ハーレムはわざとやってるんだって言ってたっけな」
「叔父さん・・・て、サービス様っすか?」
「ん・・・・昔そんなこと言ってた。子供のまま成長が無いんだと。実際、あの叔父さ
んとアレが双子だなんてオレは信じらんねー」
「オレも信じらんねーっす・・。サービス様を良くは知らねぇっすけど。でも、獅子舞
とそっくりなのがもう一人居たら、最悪っすよね!似て無くて良かったっすよ!!」
「確かになー」


「どうしてんだろーな、今頃」


 誰が、とシンタローが問うてきたので「コタローっすよ」と答えた。
あの獅子舞は、また酒でも飲んでいるだろうと思いながら。